『不思議な勝ちなし』
●緑園(みどりえん)と藤江町(ふじえちょう)の決勝戦になった。
大垣市民ソフトボール大会は、町内単位の勝ち抜きトーナメントで、
小学校高学年と中学生の混合チームを作る。女子も2名以上入れなけれ
ばならない決まりがある。藤江町に住む中学三年生だった私は、決勝
を前にしてメンバーに聞いた。
「どう?勝てると思う」
みんな首を横に振った。
「勝てないよ」「勝てるわけがない、緑園だよ」「よくここまでこれ
たよ」
●キャプテンの私も勝てないと思っていた。なにしろ緑園には野球部
主将の石井君や、エースで4番の小森君がいる。女子の金子さんにいた
っては男子勝りの巨漢スラッガーだし、塁に出たら易々盗塁してしま
う韋駄天・瀬古田君もいる。
●初回から波乱の幕開けだった。まずは一回の表の攻撃で相手投手が
四球を連発し、こちらは何もしていないのに押し出しだけで3点を先制
した。なおもツーアウト満塁。そこでラストバッターの貧打・棚橋君
がバッターボックスに入った。そこで攻撃は終わるものだと誰しも思
った。棚橋君がゆったり振ったバットに偶然ボールが当たり、外野フ
ライになった。浅めに守っていた外野手だが、余裕で追いつき捕球体
制に入った。しかし、ボールをバンザイしてしまった。結果的には満
塁ホームランになり、藤江町は初回から7点をもらった。
それでもメンバーは誰も勝てるとは思っていなかった。
●1時間後、試合が終わった。結果は11対8で藤江町が勝ち、夢にも思
っていなかった初優勝を果たした。
緑園のメンバーは皆、ぼう然としていたが、それ以上にぼう然として
いたのが藤江町のメンバーだった。「あり得ない」という顔を両チー
ムの全員がしている不思議な閉会式だった。
「勝ちに不思議の勝ちあり」は野村克也元監督の言葉だが、本当に不
思議な勝ちであり、今でも鮮明に覚えている。
●それ以降、そんな「不思議の勝ち」は後にも先にもない。
今年 DeNA ベイスターズから移籍した金城選手(38)がジャイアンツ
で活躍している。「ジャイアンツの選手は全員がプロフェッショナル
だ。自分の役割を自覚していてその期待を裏切ることはない」と語っ
ている。井端選手(39)も片岡選手(32)も同じような発言をしてい
たはずだ。
●いつも勝つことが期待され、勝つのが当たり前だし、負けることは
許されないという常識意識がチーム内にが出来上がると、そのムード
がチームメンバーに影響を与えるようになる。
●サッカー日本代表の監督を引きうけたハリルホジッチ氏(以下、ハ
リル監督)は、かつて率いていたフランスのクラブチームでこんなエ
ピソードがあった。
あるアウェーの試合でそのクラブチームは負けた。帰りのバスで、一
人の選手が歌を口ずさんだ。するとハリル監督はバスを止め「全員、
外に出ろ」と怒り、説教をした。「絶対に負けを受け入れることはで
きない。負けたら病気になる。勝つのも負けるのも同じだという考え
の人とは付き合わない。勝てば勝つほど勝ちたい。それが私の哲学。
心の底から湧き上がってくるものだ」と語り、勝利への要求を口にし
た。それが組織の DNA になる。
●昨年のワールドカップでもハリル監督の主義は変わらなかった。ア
ルジェリア代表の監督として同国を決勝トーナメントに率いた。その
1回戦の相手が優勝したドイツだった。試合を前にして、「お前ら勝
てるんだろ?」と問いかけたら、選手は「冗談はやめてくれ。相手は
世界一だ」というような表情だった。しかし、「本当に勝てる」「勝
とう」とハリル監督が続けた。結果的には負けてしまったが(スポー
ツは)10試合やったら、1試合勝てるチャンスがあるかもしれない。
それを信じないと勝てない。そのために細部にこだわり、完璧に準備
するのがハリル監督の主義だという。
●あなたは、これから新たな目標に突き進もうとするとき、社員を前
にしてどんな決意を述べるか。
野球やサッカーの監督と同じように勝つこと(達成すること)を要求
し、期待せねばならない。そしてどうすれば勝てるかという勝ち方の
研究を試合前に入念に行わねばならない。
間違っても「不思議な勝ち」を期待するリーダーになってはならない。
経営者用メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』より